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第24話 花を咲かせられない花の子

مؤلف: 菊池まりな
last update تاريخ النشر: 2026-07-29 20:35:37

山のふもとに、小さな花の子たちが暮らす村がありました。

春になると、村の子どもたちはみんな、胸のあたりに小さなつぼみを持っていて、あたたかい風が吹くころになると、そのつぼみがひとつ、またひとつとほころびていきます。ぱりん、と乾いた音を立てて皮が割れ、蜜のような甘い匂いがふわりと立ちのぼる、その瞬間が村ではいちばんの祝いごとでした。

赤い花を咲かせる子は、勇気の心を持つ子。 青い花を咲かせる子は、静けさの心を持つ子。 黄色い花を咲かせる子は、希望の心を持つ子。 白い花を咲かせる子は、優しさの心を持つ子。

花が咲くたびに、その色は風に乗って村の広場までふわりと届き、広場はいつも、子どもたちの心の色でいっぱいになるのでした。

その年の春も、子どもたちのつぼみが次々とひらいていきました。

けれど、ひとりだけ──。

村でいちばん小さな女の子、フィウだけは、いつまでたってもつぼみが固いままでした。

村のお年寄りたちは、フィウのつぼみを見るたび、少し困ったような、それでいて何かを思い出そうとするような顔をしました。まるで、遠い昔に聞いた歌の一節を、喉のところまで思い出しかけているような顔です。誰も
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  • 菊池まりな童話集   第24話 花を咲かせられない花の子

    山のふもとに、小さな花の子たちが暮らす村がありました。春になると、村の子どもたちはみんな、胸のあたりに小さなつぼみを持っていて、あたたかい風が吹くころになると、そのつぼみがひとつ、またひとつとほころびていきます。ぱりん、と乾いた音を立てて皮が割れ、蜜のような甘い匂いがふわりと立ちのぼる、その瞬間が村ではいちばんの祝いごとでした。赤い花を咲かせる子は、勇気の心を持つ子。 青い花を咲かせる子は、静けさの心を持つ子。 黄色い花を咲かせる子は、希望の心を持つ子。 白い花を咲かせる子は、優しさの心を持つ子。花が咲くたびに、その色は風に乗って村の広場までふわりと届き、広場はいつも、子どもたちの心の色でいっぱいになるのでした。その年の春も、子どもたちのつぼみが次々とひらいていきました。けれど、ひとりだけ──。村でいちばん小さな女の子、フィウだけは、いつまでたってもつぼみが固いままでした。村のお年寄りたちは、フィウのつぼみを見るたび、少し困ったような、それでいて何かを思い出そうとするような顔をしました。まるで、遠い昔に聞いた歌の一節を、喉のところまで思い出しかけているような顔です。誰も、それが何の歌だったか、口には出しませんでした。フィウは、広場のすみっこにちょこんと座って、自分の胸のつぼみをじっと見つめていました。「どうして、わたしは咲けないんだろう」友だちのキィカ──黄色い花を咲かせた、村でいちばんのおしゃべりな女の子──が、風に揺れて笑い声のような音を立てるのを見ながら、フィウはそっとため息をつきます。風が吹いても、フィウのつぼみだけは、ぴくりとも動きませんでした。「そのうち咲くよ」 「急がなくていいんだよ」まわりの子どもたちは、いつも優しく声をかけてくれました。でも、優しくされればされるほど、フィウの心は少しずつ沈んでいくのでした。慰められるたびに、自分がみんなとは違う場所に立っているのだと、あらためて思い知らされる気がしたのです。だから、フィウは人の輪の中にいるのが苦手になって、誰かの後ろにそっと隠れる癖がつきました。土の匂いのする、日陰のひんやりした場所が、フィウにとっていちばん落ち着く場所でした。ある日のことです。あのおしゃべりなキィカが、めずらしく黙りこんで、うつむいていました。花びらの先が、少しちりちりと丸まっています。「どうしたの

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    町外れの小さな家に、ミユという女の子が住んでいた。冬が来るたびに、ミユはおじいちゃんと一緒に庭で雪だるまを作った。丸めた雪を重ね、木の枝で腕をつけ、石ころで目と口を作る。仕上げに、おじいちゃんが自分の首から外した焦げ茶色のマフラーを、雪だるまの首に巻いてやる。それが二人だけの、毎年の約束だった。「いいか、ミユ。雪だるまはな、ただの雪じゃないんだぞ」 おじいちゃんはマフラーの結び目をきゅっと締めながら、いつもそう言って笑った。 「心を込めて作れば、ちゃんと応えてくれる」ミユが六歳になった年の冬、おじいちゃんは静かに眠るように旅立った。棺の中のおじいちゃんは、あのマフラーを巻いていなかった。ミユはそれをこっそり形見にもらい、簞笥の奥にしまい込んだ。その年の初雪の朝、ミユは一人で庭に出た。悲しくて、雪だるまなんて作る気になれなかった。けれど、気がつくと手は勝手に雪を丸めていた。下から大きく、真ん中を少し小さく、頭はいちばん小さく。そして家に駆け戻り、簞笥の奥からマフラーを取り出して、震える手で雪だるまの首に巻いた。結び目を締めた瞬間、雪だるまがふわりと動いた。「泣くな、ミユ」低くて、優しい、忘れられない声。「お、おじいちゃん……?」雪だるまは答える代わりに、ゆっくりと右腕の枝を持ち上げてみせた。まるで、大丈夫だよ、と言うように。それから毎年、初雪の日にミユは雪だるまを作り、簞笥からマフラーを出してきて首に巻いた。マフラーを巻いた瞬間だけ、雪だるまは動き、話した。十歳の冬、自転車の練習でひどく転んで、膝から血を出して庭に座り込んでいたミユに、雪だるまは言った。 「立て。今日立たなきゃ、明日も立てなくなる」 ミユは泣きながら自転車にまたがり、日が暮れるまで転び続けた。十四歳の冬、初めて好きになった人にふられて、口も利かずに雪の中に突っ立っていたミユに、雪だるまはしばらく黙ってから、ぽつりと言った。 「今は、世界が終わったみたいだろう」 「うん」 「でもな。雪は、また降る」 それだけだった。それだけで、ミユは声を上げて泣いた。十八歳の冬には、雪だるまの言葉はずいぶん少なくなっていた。何を聞いても、 「お前ならもう、わかるだろう」 とだけ答えて、あとは雪の庭に静かに佇んでいる時間が増えた。マフラーの色も、少しずつ色褪せて見えた。二十歳の冬。大学の合

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  • 菊池まりな童話集   第19話 竜と眠り姫

    序章 遠い北の山奥に、百年の眠りについた姫がいるという噂があった。 姫を眠らせているのは、山頂の古城に住む一匹の竜。誰もが「恐ろしい怪物が姫を人質にしている」と信じていた。 だが、村の古老だけはこう語った。「あの竜の唸り声を聞いたことがあるか。あれは怒りではない、夜通し泣いているような声だ」 若者トビアスは、村を救う英雄になりたい一心で、剣を携えて山を登った。 城の最奥、玉座の間で、彼はついに竜と対峙する。竜は炎のような赤い瞳で若者を見つめたが、その瞳の奥には、怒りよりも深い何かが揺れていた。竜は低い声でこう言った。「お前もまた、剣を持ってきたのか」 その声には、うんざりしたような、それでいてどこか期待するような響きがあった──まるで、これまで訪れた誰もが同じ選択をしてきたことを、竜自身が一番よく知っているかのように。ここでトビアスの選択が、物語を三つの道に分ける。選択A:剣を抜く「英雄の道」 トビアスは迷わず剣を構えた。竜はそれを見て、なぜか安堵したように目を細め、それから抗うように炎を吐いた。 激しい戦いの末、若者は竜の急所を突き、竜は崩れ落ちる。「……ようやく、終わるのか」 竜はそう呟き、静かに息絶えた。その声には憎しみも恨みもなく、長い務めから解き放たれるような静けさだけがあった。同時に、玉座の間に光が満ち、姫がゆっくりと目を開ける。 村に戻ったトビアスは英雄として讃えられ、姫と結ばれた。だが彼は時折、竜の最期の声を思い出す。あれは敗者の声ではなかった──まるで誰かに終わらせてもらうのを、長い間待っていたかのような。祝宴の夜も、彼の心には小さな棘が残り続けた。〈英雄の勝利、しかし晴れきらない心〉選択B:対話を選ぶ「和解の道」トビアスは剣を鞘に収め、静かに問いかけた。 「なぜ姫を眠らせている?」竜は驚いたように長い首をかしげ、やがて語り始めた。 かつて竜は人間の魔法使いだった。姫の一族に裏切られ、呪いによって竜の姿に変えられてしまったのだ。姫を眠らせたのは復讐ではなく、姫の一族の魔法が解ける唯一の方法──姫が心から誰かを想うことでしか、自分にかけられた呪いも解けないと知ったからだった。「私はただ、誰かがここまで来て、話を聞いてくれるのを待っていた」 トビアスは竜のそばに座り、夜通し語り合った。翌朝、姫は自然に目を覚ました。

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